株式会社マクロミル 杉本哲哉 社長インタビュー動画 学生起業家支援団体

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株式会社マクロミル
杉本哲哉 社長










前職のリクルート時代に培った経験の中で、起業するにあたり役に立ったことは何でしょうか?
私が就職した時には、リクルートは既に創業30年以上経っていて、事業モデルが完成の域に達していました。ですから、リクルートにはビジネスモデルを勝ちパターンへ持ち込む為のノウハウがあって、私は、それを頭に叩き込みましたね。また財務部で学んだことによって、財務的な数字を自分で読むことが出来るようになり、『採算』を重視することの重要性を知りました。さらに、経営者と社員の情報の共有方法や研修制度などを一通り学んでいたことが、マクロミルを立ち上げて強い会社組織を維持していく上で役に立ちました。


リクルートという大企業を辞めて独立・起業を考えた時、安定的かつ継続的な収入を得られなくなることに対して不安などはありませんでしたか?
収入が途絶えた時に「恐い」と思う人は、多分それで食べていけなくなる人ですよね。それが私の場合は食べていけたということです。リクルートでは、30歳を過ぎていて、かつ勤続5年以上の人には、退職金の他に独立支援金として1000万円くれる制度がありました。その1000万円と退職金や貯金を合わせれば、1年くらいはなんとか食べていけるだろうと考えていました。もし、1年事業をやって芽が出なかったら、リクナビとかを見て転職すればいい(笑)とも思っていました。アテがあったわけではありませんが、ダメだった時は、どこかの面接を受けてでもまたやり直せばいいじゃないかと。ですから、起業する時、特に「恐い」とは思いませんでしたよ。ただ、給料は創業から6ヶ月は無給になりましたけどね(笑)。


経常利益率30%以上という高い利益を生む企業構造を組み立てる為に、特に何を重視してきましたか?
まず重要なのが、利益を出そうとする『コスト意識』。次に『利益が出るストラクチャー(構造)』を作ること。そして3番目に私は『ブランディング』だと思っています。例えば、既にブランド力のある大企業の場合なら、マーケティング的に言うと「知っているから買う」という人も出て来ます。やはりブランドというものは付加価値があるので、利益率を高めるにはとても大事です。特にネットの世界では、ブランドが即インパクトに繋がりますので凄く大事です。 しかし、もっと大事なのは「無駄なものは買わない」という社員の『コスト意識』です。例えばサッカーなら、点がなかなか取れない場合ですと、勝つためにはひたすら守るしかありません。ディフェンスとは、企業で言ったら「お金を使わない」ということになります。常に支出を最小限に抑えてお金の流出しにくい構造にし、かつ社員はコピーを取るにしても、紙を一枚使うにしても「お金が掛かっている」という意識を持つこと、またそれを社員に意識付けることが重要です。これが組織の体質に繋がっていきます。 次に大切なのは、ストラクチャーです。財務的に言うと、売れば売るほど利益が出るようにしていくには、ムダな工程を出来るだけ排除していくことが大切ですよね。例えば、品川にオフィスがある弊社の場合でいうと、お客様の構成がほとんど大阪であった場合、営業面でムダがあるということになります。つまり、フローが悪いということです。オフィスの場所にしても、仕事の順番にしても全てストラクチャーに繋がっているので、これらのムダな工程を改善していくことで、利益を出すことができるようになります。 ここで経営者は「ウチの仕入れは大丈夫かな?」「人件費は他社と比べてどうなのかな?」「販売価格は競争力があるかな?」などということを、ずっとモニタリングしていくことが役目です。こうしたことは本にも書いてありますが、それを読んで理解するだけでなく、実際のところ実行に移せる人はなかなか少ないようです。私たちはこれら一つ一つを実行しただけで、何か特別なことをしたわけではありません。


御社の営業力は他社と比べて優れていると評価されているようですが、特にどういった点が強みとなっているのでしょうか?
当社は営業を非常に重視しています。営業力が強いというのは、『泥臭いこと』を出来るかどうかにあると私は思います。なぜなら、お客様のところへひたすら行っても、最終的に商品を買ってもらえなければ食べていけないからです。例えお客様に「こんなものは必要ありませんよ」と言われても、そこで「何故ですか?」「どこがいけなかったのですか?」と食い下がらないといけません。そこで指摘されたことをナレッジとして集結させていって、それを商品力に活かせるかどうかはバックオフィスの問題なのですが、ヒアリングして来るのはもちろん営業の仕事です。お客様に怒られながらも営業がアンテナを張って、その結果仕入れた情報を的確に整理して、改善へと吸い上げるフローを全員が地道にどれだけできるか。この『泥臭いこと』を非常に大事にしているので、弊社の営業は強いと評価されているのだと思います。


経営者として意思決定をする場面はたくさんあると思いますが、特に新規事業を立ち上げる時の最終的な判断基準は何でしょうか?
絶対に判断基準としなければならないのは、『採算性』ですね。『採算性』を度外視してゴーサインを出せる会社は、各業界で大手の1社か2社しかないと思います。新興企業が大きな資本もない中で、戦って生き残っていける強い会社にしたいなら、「赤字の商品を作らない」ということです。利益をきちんと出して滅法売れる商品をどれだけ揃えられるかがポイントです。よく起業を目指す方々が陥りがちなのが、「面白いからやってみよう!」ということです。これは注意すべき点です。面白くても、その事業で『採算』が取れるのかどうかじっくり検討しなければなりません。経営者にとって重要なのは、『採算』というのはどこで見るのかBS/PL(財務諸表)などの科目を頭の中ですぐに浮かべられることです。例えば、新規事業をはじめる際、必要となる能力を持った人を新たに採用しなければならない場合、当然広告費などがかかります。それを賄うためには、商品の価格をいくらにして、月間でいくつ売れなくてはならないのかを検討します。そうすると、新規事業をやるべきか否かの判断が出来ます。この『採算性』というものは、新規事業における妥当性の前提となるものなので、特に重要です。 採算ラインをいくつか通ったものがある場合、次に重要なのは『自社にとっての意義』だと思います。自社の設立の趣旨や、そこに集まってくれた社員に対しての経営サイドの責任がありますし、株主をはじめとするステイクホルダーからは新規事業の意義を当然求められますから「儲かれば何でもいいや!」ではすまされません。 今言ったことを踏まえて、自社にとって意義のある候補が2つ残った場合には、次に判断基準となるのが『面白さ』です。どちらも儲かって、意義あるものなら、面白い方をやったほうが良いです。もちろん、余裕があれば両方やるのが良いですけどね(笑)。


壮大なヴィジョンが不安に感じることは無いのか?
当然、不安は常に持っています。でも、不安は人間が成長するために必要な要素であると僕は考えています。人間安心してしまえば成長が止まってしまうものです。


経営者にとって必要なものを教えて下さい。
まず、ビジョナリストであることです。そして、描いたビジョンを実践的な所に落とし込んでいくためには、社員に『伝える』ことが重要です。この『伝える』ことまで含めて、ビジョンが大切です。 次に、経営者は組織を引っ張っていかなくてはならないので、リーダーシップが大切です。 そして最後に、ビジネスセンスが大切です。具体的には『採算』を感じる力と、競合が出てきた時に、それを敵と見なすか、味方と見なすか判断する力です。そのためには、「その業界にどれだけ精通しているか」と「業界の将来をどれだけイメージ出来ているか」がポイントになるでしょう。


今後、中小企業や個人商店にも御社のサービスを利用してもらいたいとのことですが、どのようなアプローチをお考えでしょうか?
従来の郵送や電話、訪問などの市場調査に比べ、ネットリサーチは圧倒的に低コストで手軽に利用できるため、少しずつですが中小企業や個人の方の利用も拡がっています。これから起業しようとする個人の方が、自分のポケットマネーで5〜10万円の調査を行い、事業企画やサービス設計に活用している例もあります。ただ、個人や中小企業などの層は、現状マーケティングが身近でない層なので、利用が本格化するのはまだ先になると思います。このような層へのサービスの浸透の構造はどこの業界も同じで、まずは大手企業が導入を始めます。そして大手が動き出した後に、次のレイヤーの会社が動いて、さらに次のレイヤーの会社が動き出すという感じで徐々に浸透して行きます。ですから、大手にくまなく浸透するようにコツコツやっていくことが先決ですね。 また、テレビなどのマス広告は一般の消費者にはとても認知率が高いので、今後の戦略として検討してもいいですね。


今後の事業展開と目標を教えて下さい。
当社の年商は現在36億円(2005年6月期見込み)ですが、ネットリサーチはまだまだ成長市場です。3年後には、まず年商100億円を達成したいと考えています。今後の事業展開としては「調査モニタのバリエーション強化」を考えていて、これまで中心としてきた国内の一般消費者モニタだけでなく、特殊モニタと呼んでいる医療従事者や海外の消費者モニタなど調査対象を拡げたリサーチサービスを強化しております。現在は、その新たに始めたサービスが、収益化しつつあります。 また、弊社は社是でも掲げていますが『IT×マーケティング』をキーワードに、リサーチにとどまらず、マーケティング領域でイノベーションを拡げてゆきたいと考えています。マーケティングというものは、今まで何となく感覚で捉えられて来ましたが、ITの進歩によって定量的にも捉えられるようになって来ました。例えば、昔はコンビニのPOSはありませんでしたよね。しかしPOSの導入により、それまで全て感覚値で処理されてきたものが、今何が売れていて、何時頃に売れたのかということまで分かるようになりました。それと同様に弊社としては、商品が売れた理由や売れなかった理由、または何と何の組み合わせでよく売れるのかということを調査するというPOSの定性調査版のようなサービスの提供や、販促の領域でも新たなサービス展開が可能だと考えています。


起業を志す学生にメッセージをお願いします。
起業を志す学生が多くなっていること自体は悪いことではないのですが、起業して、最終的にその会社をどうしたいのかを考えるべきです。最終形として小さな会社で良いのならそれで良いのですが、会社を大きくして株式公開などしたいと考えているのでしたら、まずそれくらいの規模の会社に入って学んでから起業した方が良いと思います。かなり頭が良い人を除いて、普通の人はそういう会社に一度身を置かないと具体的なイメージが出来ません。起業したいのであれば、まず大企業に入り、どうやってこの事業が成り立っていて、どうしてこの組織になったのかということを吸い上げて、将来自分のやりたいことに活かすということが成功への一番の近道だと思います。あとは、学生のうちは、しっかり勉強をしておくことですね。